【医療】骨髄移植ドナーの体験記
2022年の某日、骨髄移植ドナーとして入院し、末梢血幹細胞を提供してきました。
(ドナー・レシピエント・移植に関する匿名性のために、詳細な日程は明記していません)
なかなかできない貴重な経験だったと思うので、このブログでまとめたいと思います。興味がある方の参考になれば幸いです。
目次
骨髄ドナーについてとその登録方法
骨髄ドナー制度についての詳細は骨髄バンクのWEBを参照するのが早いですが、簡単に説明すると「骨髄・造血幹細胞の異常により健康な血液が作れない患者(レシピエント)に対し、健常者のものを移植すること」です。
移植にあたって必要な条件となるHLA(血液の遺伝情報)が一致する確率は、血縁関係が無い間柄だと数万分の一ほどと非常に低確率のため、公益財団法人の日本骨髄バンクが仲介してドナーとレシピエントのマッチングを行っています。
移植が必要なレシピエントが出た際、登録者の中に条件に合致した人がいれば連絡が来て、提供意思確認や精密検査に問題なければ、移植が行われます。
移植は公益財団法人と国の管理のもとに行われ、ドナーの自由意志のもと(必要経費以外は)無償・無給が原則です。
(が、助成金が出る場合もあるので後述)
ドナー登録から入院まで
ドナー登録
骨髄ドナーに登録したのは、献血に行った際に案内をもらったから。献血自体は(無料健康診断と自己肯定感・承認欲求増進のためという自己中心的な理由で)好きなので、同じようなものだと思って登録しました。
献血時に登録すると採血や情報登録もすべて同時に行ってくれるので楽です。
登録後に一度適合通知がありましたが、その際はレシピエント都合で中止になっていました。
適合通知
2022年某日、SMS宛に「登録ドナーとして選ばれたので意思確認をしたい」と適合通知の連絡があり、コーディネーター(骨髄バンクに勤務する、ドナーレシピエントの調整のための職員)の方と面会して最初の説明や意思確認をうけました。
曰く、登録はしていてもいざドナーとして選ばれたとなると、家庭や仕事の都合で断る人も少なくないとのこと。
ちょうど仕事も落ち着いていた時期で年休も余っていたため、ドナー選定を進めてもらうよう伝えました。
健康診断
後日、大きな病院で血液検査と健康診断を受けました。この時点ではドナー候補者は複数おり、診断結果からレシピエントの相性が最も良いと判断されたドナーが最終的な対象者として選ばれるとのこと。ここまでやったからにはせっかくなのでドナーになりたいという意思が通じたのか、健康診断から2週間ほど後に、無事に最終候補者になったと連絡がありました。
採取方法※、時期や入院する病院のおおよその日程もはっきりしたため、改めて同意して次のステップに進みます。
※現在骨髄バンクで行われている移植方法は2種類(骨髄からの直接採取・血液中の末梢血幹細胞の採取)ある。全身麻酔手術を伴う前者よりも、よりドナー側の負担が少ない後者の方が術数が多いとのこと。今回の私も後者。
最終意思確認
候補者になった後、最終の意思確認があり、本人と親族1名(配偶者や親など)の同意が必要です。これは弁護士立会いの下で行われ、一度同意したら決して撤回できない重要なものです。
移植が決定した時点からレシピエントに対して、自身の異常な骨髄・造血幹細胞を死滅させる抗ガン剤投与・放射線治療が始まり、ドナー側のものを移植する準備に入ります。この治療が始まると病気抵抗力がゼロになるため無菌室から出られなくなり、新しいものを移植しなければやがて死にます。ここで撤回するとレシピエントの命にかかわるので、法的・公式の同意が求められるのです。
本来であれば本人と親族が同席して意思確認するものだが、私は居住地と実家が遠いためそれぞれ別々に行うことに。親には事前に説明していたし自分の意志は固いことを伝えていましたが、最後まで心配はしていました。国が提供する最高の医療体制のもとで行われるとはいえ、健康な人間が入院するのだからリスクがまったくないとは言い切れない、万に一つもなにかあったらと考えてしまうのは仕方がないことだと思います。
親族の反対で最終同意が取れないパターンが最も多いそうなので、ドナーに選ばれた人は親族に対して早い段階で確認と意志を伝えて、同意が取れないようなら早めにドナーを辞退しておきましょう。
最終意思確認の後にケガをしたり病気になったりするとスケジュールの再調整が必要になってしまうので、入院までは無理をせず安静に過ごすことを心がけました。
入院と採取
入院生活
入院は金曜日から土日を含めて4泊5日予定(予後によっては延長の可能性あり)。昨今のコロナ禍事情もあって期間中は病棟のフロアから出られないので、日用品や暇つぶしアイテムはたっぷり仕込んでから向かいます。
医師の挨拶や処々諸々の説明があった後は、採取は月曜日なのでそれまでは一日2回注射(体内の白血球を増やす薬)と血液検査があるだけ。それ以外は安静にさえ過ごしていれば問題ありません。
せっかくなので最高クラスの病室(広い個室と専用トイレ・シャワー付き)を堪能しつつ、本を読んだりゲームをしたりして惰眠をむさぼらせていただきます。
病院食も味が薄いこと以外は不満がなく、持ち込んだ大人のふりかけの力を借りつつ、美味しくいただきました。
大病院なのでWifiも通じていたので、やろうと思えば仕事もできると思います。在宅勤務ができる方には入院のハードルは低いのではないでしょうか。
血液検査の数値は良好で、白血球も順調に増えているとのこと。薬の影響で若干腰が痛い(病室内で引きこもって身体を動かしていないから?)が、副作用として事前に聞かされていたものなので心配や問題はありませんでした。
投与されていた血液中の白血球を増やす注射。正式名称は失念しましたが”G剤”と呼ばれていました。
採取
予定通り、火曜日朝から末梢血幹細胞の採取です。
朝食は普通にとって10:00ごろに迎えに来てもらい、採取室へ向かいます。採取室にはデカい洗濯機のような機械があり、チューブと針が2本出ていて、私の動脈から抜いた血液を機械に入れて必要な細胞だけを抜いた後、血液は静脈を通してまた私の身体に戻るかたち。
ようするに血小板採取献血のスケールが大きい版です。
10:30ごろから採取開始、血液を早く抜くために針は大きめの物を使用する都合、刺される瞬間は痛いしその後もズキズキします。そして3~4時間は仰向けの状態でそのまま。注射針が刺さっている都合で腕が動かせないので、基本何もできません。ベッド備え付けのテレビは観られますが平日昼にやっているワイドショーが楽しいわけでもなく、とにかく時間が過ぎるのが遅かったです。
それと、血液の流れを早くするために抗凝血薬を投与しているのですが、これの影響で指先や唇が痺れてきます。寝っぱなしで腰が痛いのもあって辛い時間でした。
あんまりに辛いのを担当医師に言うと、血液中にカルシウムを投与してくれます。投与した瞬間に身体の末端が熱くなり、痺れや痛みはかなり緩和されました。
3時間半ほどで必要量の成分が採取できたということで針を外し、車いすで病室へ戻りました。寝っぱなしということもあって全身ガタガタで立ち眩みもしてグッタリ、午後は疲労困憊でした。
採取中はGarminのライフロガーをつけっぱなしだったので、ストレス値を計測できました。
寝てるだけなのに凄いストレス量!
感想
自分の意志でやったこととは言え、採取は辛い時間だったことは間違いないです。ただ、今この瞬間もレシピエントは、放射線治療による地獄の苦しみの中で戦っていると思うと、自分のものは全然大した苦しみではないと考えて乗り切ることができました。
放射線治療は本当にキツイそうで、「こんなに辛い思いをするなら死んでしまいたい」と思うほどのものだそうです、しかも2週間以上。さらに骨髄移植が終わった後もドナーの物が定着するまでは同レベルの苦痛がある抵抗反応があり、それに加えてこれで完治する保証はない(移植後の5年後生存率は50%前後)という。
そんな状況でもわずかな希望のために必死で戦っているレシピエントと、少しでも同じ時間・同じ気持ちを共有できたことは、言い表せされない不思議な感覚を得られた気がします。敢えて言うなら「勇気」でしょうか。
不自由や苦痛、入院・手術に当たっての恐怖はありましたが、骨髄移植ドナーをやって心から良かったと思っています。
その後
退院と健康診断
月曜日夜と火曜日朝に実施した健康診断の数値は最悪でしたが、許容範囲内ということで無事退院となりました。しばらくは抗凝血剤の影響で血が出やすかったり固まりづらかったりするらしいので十分安静にとのこと。
退院後3日ほどは軽い倦怠感がありましたが大きな問題は無く、その後の再度の健康診断でも異常値は見られなかったため完了となりました。健診結果や身体の状態については、病院とバンクがきちんとフォローしてくれたので安心感はありました。
採取された末梢血幹細胞は無事にレシピエントへ移植されたとのこと。匿名性のために教えてもらえるのはここまででしたが、無事に適合して回復に向かうことを、同じ空の下で祈っています。
感想とオマケ、まとめ
適合通知が来てからすべて完了するまで6か月ほどでした。その後今に至るまで身体に異常は全く無く、平穏無事に過ごしています。
前述しましたが、ドナーを体験できたのは貴重かつ有意義なことでした。顔も名前も知らないレシピエントの希望になれたことは、今後の人生の中で財産になると思うし、この体験が私自身の希望でもあります。俗な言い方をすると自己肯定感が爆上げ。なんの取柄もない自分でも見知らぬ誰かの役に立てたと考えると、自分が好きになるし、もっと誇れる生き方をしようという気持ちになりました。
ちなみに移植がうまくいって私の細胞が血液を作り始めると、レシピエントの血液型や血液細胞のDNAはドナーと同じものになるそうです。この世に自分とまったく同じDNAを持つ人間が居る・生きている、と思うと、神秘的というかロマンを感じるというか。
あとは、年に何件もない最新医療の一例・礎になり人類の医学の発展に貢献できたという達成感があります。いつかこの医療技術が身近な人や私自身を助けてくれるかもしれません。
さらにオマケ。今回骨髄バンクから貰ったものは交通費と入院準備金(5000円)だけでしたが、住んでいる自治体によっては骨髄移植の助成金を出しています。証明書と併せて申請書を提出すれば、行政から補助金がもらえるので、それ目的で受けるのはどうかとは自分でも思いますが参考まで。
(ドナー助成金は提供の証明書が必要なので、適合通知や最終合意前の段階では貰えないので注意。欲しい人は最後まで責務を果たしてくださいね。)
結び
私自身はドナーとして提供する側でしたが、自分が得られたものも多い、貴重な体験でした。ハードルが高いのは事実ですが、リモートワークの普及による場所を選ばない働き方や社会の認知も進んでいて、企業によっては入院のための特別休暇取得を認めているところもあるそうです。興味のある方、とくに献血を日常的に行っている方などは、まずはドナー登録をしてみてはいかがでしょうか。
ドナー登録数と移植件数が増え、難病と戦う方々が少しでも助かる世の中になることを祈りつつ、結びの言葉とさせていただきます。